「環境問題には、どのようなものがある?」
「環境問題のために、何かした方がいい?」
地球温暖化、海洋汚染、大気汚染、生物多様性の損失など、私たちの生活を取り巻く環境には様々な課題が存在します。これらの問題の原因は、私たち一人ひとりの生活の中にあり、その解決策もまた私たちの日常生活の中にあるはずです。
この記事では、環境問題の具体的な内容と身近なところから始められる取り組みについて、解説しています。
環境問題とは?どんなものがある?
環境問題とは、人類の生存基盤である「環境」に悪影響を及ぼす問題のうち、人の活動によって引き起こされるものの総称です。
18世紀後半の産業革命後、人類は化石燃料を消費して動力を手に入れた一方で、大気汚染や森林破壊などの悪影響を増加させてきました。日本において、大気や水質の汚染による人への深刻な健康被害が顕在化したのは、戦後の高度成長期です。
現在ではよりグローバルな環境問題が注目され、気候変動や生物多様性保全などに対する国際協力の枠組みが生まれています。2015年のパリ協定では、産業革命以降の化石燃料の使用が大気中のCO₂濃度を上昇させているという認識のもと、温室効果ガス削減に関する世界的な取り決めが示されました。
多岐にわたり、それぞれ絡み合う環境問題ですが、ここでは主要な課題について説明していきます。
地球温暖化と気候変動
地球温暖化とは、地球全体の平均気温が長期的に上昇する現象です。現在の地球は1800年代後半と比べて平均気温が1.1℃上昇し、2011〜20年は観測史上最も気温が高い10年間となりました。2023年は世界の平均気温が観測史上最も高く、産業革命前と比べて1.48℃上昇していたという報告もあります。
地球温暖化の原因は、CO₂をはじめとする温室効果ガスの増加です。もともと地球上には温室効果ガスが存在し、太陽から受けた熱が地球の外へと放熱するのを防ぎ、地上の気温を適度に保つ役割を果たしていました。
しかし、18世紀の産業革命以降、人の活動によって大気中の温室効果ガスが増えたために地上にとどまる熱が増加し、地球全体の平均気温が上昇し続けているのです。特に大気中のCO₂は産業革命前に比べて40%増加しています。これは、エネルギーを得るために、石炭や石油などの化石燃料を地下から資源として発掘し大量に燃やしてきたことが原因です。
全世界のCO₂排出量の大半は一部の先進国や新興国が占め、2020年では中国が1位で100億トン以上、2位の米国が約43億トン、日本は5位で10億トンとなっています。
森林の減少もCO₂増加の主要な要因の一つです。植物は成長する過程で大気中のCO₂を吸収し酸素を放出するため、森林は地球上で最も重要な炭素吸収源となっています。しかし、人口増加や経済活動の拡大に伴い、農地拡大、商業目的の木材採取、都市開発などのために大規模に森林が伐採されてきました。森林の減少はCO₂吸収能力の低下を意味し、結果として大気中のCO₂増加につながっているのです。
地球温暖化が進むと、熱波や寒波、豪雨などをもたらす気候変動が起こります。現在確認されている気候変動の影響は、次のような例です。
- 深刻な干ばつ
- 水不足
- 農作物の不作
- 大規模火災
- 海面上昇
- 洪水
- 極地の氷の融解
- 壊滅的な暴風雨
- 生物多様性の減少
いずれも、近年、国内外で被害が報じられており、他人事ではない身近な問題となっています。
マイクロプラスチック問題
マイクロプラスチックとは、直径5mm以下のプラスチック片のことです。年間約800万トンのプラスチックが海に流出し、2050年までに海のプラスチックごみの総重量が海の魚の総重量を上回る可能性があるといわれています。
海洋プラスチックごみ自体、海生生物に直接的な悪影響を与えるので問題です。さらに、これらのプラスチックが、太陽光や波風によって劣化し細かくなることで、マイクロプラスチックが生成されます。また、化繊でできた製品、化粧品や日用品など、身近なところでもマイクロプラスチックが使われており、排水とともに最終的に海に流出しています。
世界の海には約5兆個のマイクロプラスチックが漂っていると推計され、全てを回収することは困難です。
また、プラスチック汚染は海だけではありません。淡水湖・内海・河川・湿地、またプランクトンからクジラまで、ほぼ全ての生物でマイクロプラスチックが見つかっています。最近では、主要な11の国際ブランドのペットボトル入り飲料水の93%からプラスチック粒子が検出されました。
食物連鎖によりプラスチックを体内に取り込んだ魚介類を人が食べた場合、90%は体外に排出されますが、ナノレベルまで微細化されたものが日本人の血液から検出されたとの調査結果も報告されています。
マイクロプラスチックが生物にどんな影響を与えるかは、現時点ではっきりしていません。しかし、マイクロプラスチックは有害化学物質を吸着しやすいため、食物連鎖を通じて濃縮されれば、ガンなどの健康被害のリスクが高まる可能性があります。
日本周辺海域のマイクロプラスチック汚染は、世界平均の27倍です。アジア各国は海洋プラスチックごみの発生量ランキングで上位に位置し、日本も廃プラスチックの大量排出を通してこの問題に関与しています。
水質汚染
水質汚染は、河川、湖沼、海洋などの水環境の質が悪化する現象です。水質汚染が進行することによって、飲料水や水産物の安全性が脅かされ品質が低下するなど、人類にとって直接的な影響が懸念されています。
特に清浄な水が確保できない地域では、汚染された水を使用することで生じる健康被害が深刻です。水質汚染は、化学物質や有機物、細菌の量、水の色や濁り具合など、さまざまな指標によって測定されます。主な原因は人間の生活や産業活動であり、以下の3つが主要な要因です。
産業排水
工場や農場から排出される排水に含まれる有害物質により、水質汚染が引き起こされます。国内でも、過去に水俣病やイタイイタイ病のような公害問題が発生しましたが、現在では規制の強化により、産業排水による汚染は減少傾向です。しかし、世界的に見ると、依然として深刻な課題となっています。
生活排水
日常生活で台所・トイレ・風呂などから発生する排水も、水質汚染の原因です。下水道の整備不足や、キャンプ場などで排水を処理せずに放流することは、河川や海の汚染に直結します。
地球温暖化
地球温暖化による気候変動は、水質汚染にも間接的な影響を与えます。気温が上がることによる水温の上昇は、水中の藻を増殖させ水質悪化につながります。
清潔で安全な水資源の確保は、持続可能な開発目標(SDGs)の一つでもあり、国際社会が一致団結して取り組むべき重要な課題です。
大気汚染
排気ガスによる大気汚染は、人や生物に悪影響を及ぼす問題です。
工場や自動車からの排気ガスには、呼吸器に異常を引き起こす物質、光化学スモッグの原因となる物質などが含まれます。また、排ガス中の窒素酸化物は酸性雨の原因であり、CO₂は地球温暖化を促進する温室効果ガスです。他にも、廃棄となった冷却設備や自動車が適正に処理されない場合、フロン類が回収されずに大気へと放出されます。
排気ガスが大気汚染を引き起こす理由は、ガソリンや軽油などの燃料を燃焼させて動力を得る際に、燃焼過程で多くの有害物質が排出されるためです。一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物、粒子状物質などの排出物は、直接的に健康被害を引き起こすことがあります。
特に呼吸器系への影響が大きいのは、炭化水素と窒素酸化物が引き起こす光化学スモッグや微細な粒子状物質(PM2.5など)です。窒素酸化物による酸性雨は、河川や湖沼、土壌を酸性化して生態系に悪影響を与えるほか、建造物や文化財に被害を与えます。
規制の効果や技術の進歩により排気ガス中の有害物質の量は減少しましたが、隣国も含め、引き続き確実な大気汚染対策が求められています。
生物多様性の損失
生物多様性の損失は、地球規模で起きている深刻な環境問題の一つです。
生物多様性とは地球上に存在する生命の多様性を指し、生態系の多様性、種の多様性、そして遺伝的多様性の三つのレベルがあります。
約40億年前に地球上に生命が誕生してから、これまでに3千万種もの生物が生まれ、複雑に相互作用し、環境に適応して進化してきた結果、今日の生物多様性が形成されました。人間もこの生物多様性の一部として存在し、生物多様性は直接的にも間接的にも人間が依存する生存基盤です。
しかし近年、化学物質やプラスチックごみによる生態系のかく乱、森林破壊や温暖化による生息環境の悪化など、人間活動による影響で生物多様性が急速に失われています。絶滅のスピードは100年前と比べて4万倍の速さといわれ、自然の進化による新種の発生をはるかに上回る速度です。
生物多様性の損失は、食料や水、気候調節など私たちの生活を支える環境に深刻な影響を及ぼし、人間を含む地球上の生きものの存続を危うくします。生物多様性はそれ自体に価値があるという認識のもと、損失を防ぎ回復させるための真剣な取り組みが必要です。
未来のために私たちができること
環境問題を引き起こす原因と私たち一人ひとりの生活は、無関係ではありません。
私たちが普通に暮らしていくだけでも、多かれ少なかれ環境に負荷を与えているからです。よって、一人ひとりが暮らしの中で環境問題を意識し、小さな行動を続けることができれば、環境問題の解決につながります。
生活の中で無理なく実践できそうな取り組みを以下にご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
エネルギーを無駄にしない
エネルギーの無駄遣いは、化石燃料を過剰に消費することになり、温室効果ガスの増加や大気汚染、資源の枯渇を引き起こします。
また、電力やガスに限らず、食料や日用品なども製造・輸送・小売の過程でエネルギーを消費するため、物の消費はすべてエネルギーの消費につながるといって過言ではありません。日頃からエネルギーや物を無駄にせず、必要なものを必要な分だけ使う習慣が大切です。
電気のつけっぱなしや水の出しっぱなしを見直すことはもちろん、省エネ家電やスマートメーターの利用など、最新製品を取り入れるのも効果的かもしれません。無駄遣いの見直しは、水道光熱費や消耗品などの生活費を削減するので、家計にも優しい取り組みとなります。
食器を洗うときは汚れをとる
食器についた油汚れは排水と一緒に流れ出てしまううえに、より多くの洗剤が洗浄に必要となるため、水質汚染の原因となります。
食器の汚れを洗う前に拭き取るだけで、環境への負荷を減少させることが可能です。この時、使い捨てはなるべく避けたいので、ゴムベラを使ったり、要らなくなった古布などを小さく切って常備しておき、拭き取りに利用したりすることをお勧めします。
しっかり汚れを取り除けば、洗剤はごく少量で済み、結果的に水の使用量も減るはずです。また、化学繊維でできたスポンジからはマイクロプラスチックが流出するので、食器洗いの道具も天然素材の物が良いでしょう。
食洗器を利用する方も、食器を手洗いする方も、事前に食器の汚れを取ることを意識してみてください。
ゴミの分別をする
ゴミの焼却処分では、燃やすための化石燃料の使用とゴミが燃える過程でCO₂が発生し、地球温暖化が促進されるほか大気汚染の原因物質も排出されます。
物を無駄遣いせず大切に使うことでゴミを減らすことが大前提ですが、どうしても発生するゴミは分別することが重要です。再度加工して利用できる物は資源となるため、「ゴミ分別=資源分別」とも言い換えられます。
無意識に紙類を捨てることが多いかもしれませんが、紙はリサイクルできる優秀な素材です。商品パッケージや紙袋、ちらしなどはゴミ箱に入れず、古紙としてリサイクルしましょう。
また、水分の多い生ゴミを燃やすには多くの燃料が必要となるため、捨てる前に水気を絞ることが環境問題対策になります。水切り紙袋を利用すれば、プラスチック製のごみ袋よりも臭いやヌメリが少なく、家事ストレスの軽減や脱プラスチックとなるためお勧めです。
ゴミをきちんと分別し、資源となる物をリサイクル・リユースのルートへ送り出すことは消費者の責任ともいえます。
なるべく車は使わずに移動する
自動車の利用は、大気汚染や地球温暖化につながります。暮らしの中で、移動手段を工夫して環境負荷を削減するには、スマートムーブがお勧めです。
スマートムーブの具体的な取り組みには、次のようなものがあります。
- 通勤・通学やレジャーで、公共交通機関を利用
- 最寄り駅まで自転車、徒歩で移動
- エコドライブやエコカーの活用などで自動車の利用を工夫
- 旅行や帰省など長距離移動を工夫
- カーシェアリングやバイクシェアリングなどに参加
この中のエコドライブとは、エコドライブ普及推進協議会が推進している取り組みで、燃料消費量とCO₂排出量を減らすための運転技術や心がけのことです。下記のように、ちょっとした工夫で実現できる内容となっています。
- 不要な荷物を下ろす
- 穏やかにアクセルを踏んで発進したりする
- 減速時に早めにアクセルを離してエンジンブレーキを活用する
今後、人口減や過疎化、公共交通機関の存続が問題となっていくことが予想されますが、一人ひとりが利便性だけでなく環境問題対策も考慮していくことが望まれます。
環境に配慮した商品を選ぶ
商品が消費者の手に届くまでの過程でも、製造・輸送・小売の各段階で土地の改変や廃棄物の発生、CO₂排出など環境に負荷を与えています。したがって、私たち消費者は、価格だけで商品を選ぶのではなく、環境への配慮を意識して買い物をすることが大切です。
日々の買い物で環境に配慮した商品を見分けたい時に、認証マークが手がかりとなります。環境保全に役立つ商品を示すエコマークや原料に40%以上の古紙を含む商品を示すグリーンマークはオフィス用品でお馴染みでしょう。
食品選びで注目したいのは、農薬・化学肥料を控えて生産された作物を示す有機JASマーク、持続可能な漁業で獲られた水産物を示すMSC海のエコラベルなどです。
また、商品のパッケージなどの紙製品でよく見るFSCマークは、厳しい基準にしたがって管理されている森林からの原材料を使用していることを示しています。「木を植えるマーク」「海を守るマーク」は、大昭和紙工産業株式会社オリジナルの環境マークです。
認証マークを意識して商品を選ぶことで、消費しながら社会に貢献できることになります。
情報を集める
情報収集は、環境問題の原因と影響を理解するための第一歩です。情報収集することで、問題点を具体的に理解し、自分が取るべき行動を選択するための基盤が築かれます。
また、情報収集は社会の状況や自分の行動を客観的に評価するのにも重要です。さらに、情報を共有すれば、同様の問題意識をもつ人と連携することができます。
情報を集め自分なりに理解し、考えを他者と共有することによって、一人ではできない対策も協力し合って実現できるかもしれません。
ボランティア活動に参加する
ボランティア活動に参加することは、環境の保全に直接的に貢献します。
例えば、ビーチクリーンアップや森林再生、生息地の保全活動などは、自然生態系を健全に保つために効果的な取り組みです。希少種や重要な生態系を守る活動は、地域の小さな団体から国際NGOまで、さまざまな主体が取り組んでいます。
各団体が開催するイベントに参加すれば、通常は接する機会がない生物や生息環境について、より深く知ることができるでしょう。また、環境保護に関するイベントやキャンペーンへの参加により、より多くの人と環境保全の意識を共有することが可能です。
ボランティア活動は、参加者が環境問題について主体的に深く学ぶ機会となり、活動を通じて参加者の意識が変わる可能性があります。日常生活に戻った後も、環境への配慮が継続することで、より効果が大きくなるでしょう。
まとめ
ここまで、環境問題の具体的な内容と身近なところから始められる解決策について、解説してきました。
何よりも重要なのは、自分でできる取り組みを続けることです。一人ひとりの小さな行動が継続することで大きな力となり、地球の明るい未来へとつながっていきます。ぜひ、今からできること、やってみたいことを探して、始めてみてください。
【参考】
国際連合広報センター「気候変動とは?」
千葉商科大学「海が汚染され、海の生物も人も危ない! マイクロプラスチック汚染問題とは」
Newsweek「ペットボトル入りミネラルウォーターの9割にプラスチック粒子が」
環境省「水質汚だくや土壌汚染ってなに?」
国立環境研究所「湖沼や海の水質汚染」
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